季節の変わり目には、思いがけない出来事が様々に起きるものです。大切な人とのお別れを経験される方も、やはり少なくありません。
これまで慣れ親しみ、当たり前だと思っていた生活スタイルが大切な方とのお別れを境に変化してしまうのですから、やはりご遺族の方々には大きな動揺や戸惑いが伴うものと思われます。
悲嘆感情に蓋をせず、そして受容されることの重要性
スイスの精神科医エリザベス・キューブラー・ロスは、病気を宣告された患者が失われていく己の命に向き合う過程や、大切な存在との別れを体験した方の悲嘆について研究し、成果をまとめた著書"死ぬ瞬間"を刊行しました。
お別れに向き合うことがどれほど辛いことなのか、またその過程の中で沸き起こる様々な感情を素直に表現し、受け止められることの重要性が訴えられています。
仏教で伝わる卒哭期(そっこうき)の再考
仏教では故人が亡くなられた日から数えて百日目を卒哭期(そっこうき)と呼び、泣くことをやめて悲しみに折り合いをつける日とされています。折り合いをつけることは確かに大切なことですし、ご遺族自身の今後の人生を歩む上で求められることだと思います。
故人としても、ご遺族の方にどうしようも無くしんどい日々が続くことを望んではおられないと思います。
ただし、故人との関係性や別れ方は多種多様なのです。ですから、杓子定規に折り合いをつける期間を定めてしまうのではなく、それぞれのペースが尊重される必要があると考えています。
グリーフワーク
辛いのは、それだけ大切な存在だったということでしょう。無理に感情に蓋をしようとしたり忘れようとしたところで、消える訳ではありません。そして、辛い気持ちを誰にも打ち明けず我慢する必要だって無いはずです。
人は常に平静を保てる程強くはないと思いますし、一人で抱えられることなんて限られているのです。だからこそ、人はコミュニケーション能力というものを身に付け、互いに支え合ってきたのだと思います。
セルフケア、という言葉があります。これは、心身ともに疲れた自分を癒すという意味です。このセルフケアと聞くと、何だか人に頼らずに自分だけで何とかしなければならない、といった意味のように感じられるかもしれません。
ですが、そうではありません。誰かに頼ることも、非常に大切なセルフケアの一つです。
グリーフワークのプロセス
悲嘆に向き合っていく過程、いわゆるグリーフワークの過程では様々な感情が出てきます。大切な人と過ごした楽しい思い出もあれば、先立たれたことの悲しみや悔しさ、または怒りだって出てくるかもしれません。それが自然なことなのです。
様々な感情がうごめいて、まとまらない内面を否定せずに素直に表現し、そして受け止められる体験を通じて、はじめて少しずつ向き合っていけるのではないかと考えています。
その過程にはやはり多くの時間を要するはずです。ですから、焦らずにご自分のペースを大切にして頂きたいと思います。
あなたの心の中で生き続ける
人は2度の死を体験すると言われます。1度目の死は医学的に死亡診断を受け、自分の肉体を失うことです。そして、2度目の死は人から忘れられることです。
逆に考えれば、1度目の死を体験しても周りの方が忘れないでいる限り、その方達の心の中で生き続けられるということです。思い出すことが何よりの供養になりますし、グリーフワークにも繋がると考えています。
故人が今後も生き続けるためには、ご遺族の存在が欠かせません。ですから、故人が生き続ける器となる、あなた自身を何よりも大切にして頂きたいのです。
シオンとリンドウ
シオンのように大切な人を「追憶」し「忘れない」こと、そしてリンドウのように「悲しみに寄り添う」存在が身近にいることが大切です。
洞泉寺もシオンに寄り添う、リンドウでありたいと考えています。
合掌
筆者紹介:大円良和(だいえんりょうわ)